全社をあげた製品と経営の品質追求
時代の変化に適応できる新体制の構築
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「危機感」を原動力に変えて
1998年。城北伸鉄の経営幹部たちは、危機感を覚えていた。
「このままでは、生き残っていけない」。
瀬戸際に立たされた危機感だった。
城北伸鉄は、磨棒鋼専業メーカーである。
磨棒鋼は戦前から製造が行われており、生産方法は成熟し切っている。
だからこそ、生産工程や新たな生産方法を編み出して
品質を高めることは難しい。一方で、表面に傷がつきやすく、錆びやすい特性もある。
また棒状であるがゆえに、曲がってしまえば価値が下がる。
荷扱いや保管が難しい製品でもある。
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今、求められる品質とは
ある製品に求められる品質は、時代に応じて変わる。
それは、磨棒鋼においても同じことだ。
かつては、磨棒鋼の表面に傷がついていたり、多少曲がっていたり、
錆びていたとしても、大きなクレームにはならなかった。しかし、顧客が品質管理を徹底するようになれば当然、
材料提供元である部品メーカーにも高いレベルでの品質管理が要求される。それが冒頭の「このままでは、生き残っていけない」
という言葉に集約されていたのだ。
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変化には、痛みを伴う。
それでも、前に進む「磨棒鋼に関して言えば、品質の八割は設備の能力で決まる。
しかし、残り二割は、それだけではどうしようもない部分が確実にある」
と代表取締役社長、榎本淳也は言う。
裏を返せば、旧式の設備を使っていても、高い技術力があれば、
高品質な製品を生産することが可能でもある。品質を向上させるためには、製造現場だけではなく、全社一丸となって取り組む必要がある。
そう考えた城北神鉄は、1998年から板橋区の経営品質勉強会に参加。
製品品質の改善に取り組み始めた。まずは、工場の改革。
当時の製造現場には昔ながらの職人気質で生産を行う、という風潮があった。
そこには、確かに技術がある。
しかし、それを「管理」するという視点が抜け落ちていた。当時の代表取締役社長 榎本哲也は、生産体制に明るい人材を社外から招聘。
製造現場の意識改革、生産体制改革に乗り出した。
折しも、長年にわたって製造現場を支え続けてきたベテラン作業員たちが
定年退職で離れていく時期でもあった。製造現場では、ベテランたちが積み上げてきた
生産に関するノウハウや技術を若手社員たちに伝承。
同時に、「管理」という視点も含めた新しい生産工程の確立を進めていった。進化には、痛みを伴う。変革を進めようとすれば、反発や抵抗が生まれることもある。
製造現場で変えるべきは「意識」だった。製品を丁寧に扱う。
「指定された数量を生産できれば良い」ではなく「高品質な製品を納期通りに生産する」。
話し合いやすり合わせを重ねながら、現場は新しい基準や意識に適応していった。
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経営を変革し、生まれ変わる
同時に、会社全体の管理体制強化も図った。
経営品質賞、という賞がある。これは、国際的な競争力の強化に向けた生産性向上を目的に、
顧客価値創造を続けるための「経営の仕組み」を有する企業へ贈られるものである。
当時、東京都板橋区では区内の企業を対象とした「板橋区経営品質大賞」という表彰制度を
設けていた。「板橋区経営品質大賞を受賞する」。
これを経営陣ならびに社内のリーダーたちは共通の目標として掲げたのだ。一口に「経営品質」と言っても、その範囲は多岐にわたる。
生産性向上、品質管理、組織図作り、人材教育、チームビルディング・・・。
以前は不透明だった人事評価制度なども、ゼロから整備していった。
それを、経営陣だけで推進するのではなく、管理職とも共有、全社への浸透を図った。生産現場における変革と同じく、社内からは異論や反発が起こることもあった。
しかし、その都度経営陣やリーダーは社員と話し合いを重ね、説明をした。そして、その熱は少しずつ社内へ広がっていった。
経営陣やリーダーの奔走、そして最前線に立つ社員たちの理解と協力を経て、
社内の変革は進んでいった。
製造現場の生産性は向上し、人材の管理体制も整っていった。
城北伸鉄の「経営品質」は、どんどん改善していった。
それと同時に、製品の品質も大きく改善していったのである。これは、いける。経営品質大賞を受賞できる。推進メンバーたちは何度も思った。
そして、2005年には「特別賞」、2007年には「奨励賞」を受賞。
確実に、レベルは上がっている。
そして、社内の雰囲気も変わってきた。これまであった品質管理に対する甘さはなくなり、
経営陣から現場の一人ひとりに至るまで、品質に対する厳しい目が育ってきた。しかし、手が届かない「大賞」。
しかし、あきらめる声は出なかった。
さらに経営品質の考え方を落とし込み、浸透させ、生産性を改善する。
そして、新しい取り組みが一つひとつ「当たり前」になっていった。そして、2009年。城北神鉄はついに、板橋区経営品質大賞を受賞する。
経営品質向上の取り組みがスタートしてから、足掛け6年。経営陣はもちろん、各現場のリーダー、
各職場のメンバーが一丸となって、それぞれの持ち場で取り組んできた証だった。
そして今。生産性向上へのあくなき探求と、たゆまぬ品質改善。
そして、顧客が求めるニーズに的確に応えながらも、より社員が働きやすい会社を目指す
取り組みは、今もまだ続いている。